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結婚式で捨てられた後、私は彼の最大のライバルと結婚した
結婚式で捨てられた後、私は彼の最大のライバルと結婚した
Author: 心優(mihiro)

第一話 裏切り

last update publish date: 2026-03-17 07:00:35

綾のシャンパングラスを握る指先には、

わずかな白さが滲んでいた。

今夜は彼女の婚約パーティー。

だが、婚約者の昌浩はすでに三十分も姿を消している。

周囲の名士たちの祝辞は、潮のように押し寄せては耳障りに響く。

そのとき──

本来なら"未来の花嫁“である彼女をしっかりと捉えているはずのスポットライトが、ふいに揺らぎ階段の奥へと落ちた。

綾は、目を細める。

光があまりにも強く、目の奥がじんと痛む。

スポットライトの下、逆光の中に立つひとつの影。

息を奪うほど鮮烈な、深紅のトレーン付きロングドレス。

生地一面に散りばめられた細かなクリスタルが、歩みに合わせて揺れ動き、まるで銀河のような眩い光を放っている。

大胆な深いVネックは豊かな曲線を隠そうともせず、きつく絞られたウエストラインは、豪奢でありながら危うさを秘めた一振りの短剣のようだった。

……美奈!

五年前、アメリカへ渡り、次第に連絡も途絶えていった異母妹。

どうしてここに?

まだ海外にいるはずではなかったの?

疑問が氷の錐のように胸の奥へ突き刺さった、その刹那──

もうひとつの見慣れた影が、静かに美奈の傍らに現れた。

──昌浩!

どこから現れたのか分からない。

だが彼はあまりにも自然な仕草で腕を差し出し、美奈の手がそっと自分の肘に掛かるのを受け止めた。

わずかに顔を傾け、彼女の言葉に耳を寄せるその横顔。

その専心と柔らかさは──

綾がこの十年間、一度も向けられたことのないものだった。

綾はその場に凍りつく。

数歩先では、客たちが笑いながらグラスを掲げ、社交辞令を交わしている。

彼女も機械のように口角を上げて応じる。

だが、すべての感覚は、あの二つの刺すような背中に縫い止められていた。

──どうして、彼女がここにいるの?

アメリカにいるはずじゃなかったの?

──どうして、私の婚約者が……彼女の隣にいるの?

「お姉ちゃん、サプライズだったかしら?」

美奈は親しげに昌浩の腕に絡みついたまま、まったく離す気配を見せない。それどころか、わざと彼の肩に頭を寄せ、にこやかに綾を見つめた。

綾は、喉の奥がひりつくのを感じながら問いかける。

「美奈……いつ帰ってきたの?」

「昨夜着いたばかりよ。昌浩お兄ちゃんがわざわざ空港まで迎えに来てくれたの」

美奈は驚いたふりで口元を押さえ、くすりと笑う。

「あら、聞いてなかった? 昨夜はね、ふたりで一晩中おしゃべりしてたの。話したいことが多すぎて、全然足りなくて……」

「もういいだろ」

ようやく昌浩が口を開く。

だがその声音に、叱責の色はほとんどない。

むしろ、どこか甘やかすような無奈が滲んでいる。

彼は綾へ視線を向け、淡々と説明した。

「仕方ないさ。美奈は昔から甘えん坊だろ。君も知っているはずだ」

昨夜、綾は昌浩に電話をかけ、「少し会えない?」と頼んだが、昌浩は「急な仕事で外せない」と言って断ったのだ。

──嘘だったの? 私はずっと昌浩だけを見てきたのに……。

「綾、美奈は帰ってきたばかりなんだ。ここで知っているのは俺だけだし、少しくらい世話をするのは当然だろう? こんな小さなことで、姉としていちいち気にする必要はないはずだ」

「小さなこと……?」

綾の唇がかすかに震える。

「もういい。あちらの理事たちにも挨拶しなければならない」

昌浩の声には、わずかな苛立ちさえ滲んでいた。

「少しは、冷静になれ。客の前で平井家の顔に泥を塗るな」

そう言い残し、彼はその場を離れる。

綾に優しかった頃の昌浩は、もうココには居ない。

きらめくプールサイドには、美奈と綾だけが残された。

「お姉さま、ずいぶん久しぶりね。でも相変わらず……」と言いながら、

美奈は綾を上から下までゆっくりと眺め、紅い唇に隠しもしない嘲笑を浮かべる。

「ぬるま湯みたいに刺激のないまま。昌浩お兄ちゃんが"退屈”だって思うのも無理もないわ」

──嘘でしょう? 昌浩がそんな事言うはずない!

綾は、その挑発を無視する。

しかし視線は、美奈の首元で微かに光る見覚えのある輝きに釘付けになった。

「えっ? そのサファイアのネックレス……どうしてあなたが持っているの?!」

綾は凍りつく。

それは亡き母の唯一の形見であり、平井家の女主人の象徴でもあった。

「ああ、これのこと?」

美奈は、平然と首元に触れる。

「たまたま見かけたら、父がくれたのよ。今回、お姉さまの婚約パーティーに出るんだもの、それなりのものを身につけないと場が持たないでしょ? このネックレス、私のドレスにぴったりだって父も言ってたわ」

──お父様が?!

わざと首を傾け、ペンダントを照明の下で更に輝かせる。

「どう? お姉さま。私にとても似合っていると思わない?」

「返して!」

綾は一歩踏み出す。その声はこれまでにないほど冷たく、断固としている。

母の形見がこんな形で身に着けられ、この場にあることは、彼女にとって二重の冒涜だった。

「それは、あなたのものじゃない! 返してよ!」

「返す?」

美奈は、まるで可笑しな冗談でも聞いたかのように笑う。

後ずさるどころか、逆に綾へと歩み寄る。

「お姉さま、何を言っているの? "私のじゃない”って? まさか、私のものを奪おうとしてるの?」

その目に一瞬、冷たい凶行が走る。

綾の指先がネックレスに触れようとした、その瞬間──

美奈は不気味に微笑み、避けるどころか綾の力に合わせるように動き、逆にその手首を強く掴んだ。

「きゃっ! お姉さま、何をするの!」

美奈が突然声を上げる。

大声ではないが、周囲の数人が振り向くには、十分だった。

水面に落ちる寸前、美奈は綾の手をしっかりと掴み、そのまま道連れにするようにプールへと引きずり込んだ。

──バシャンッ!

大きな水しぶきを上げながら、二人は同時に水中へと落ちていく。

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Comments (1)
goodnovel comment avatar
Rims
唐突過ぎて、置いてけぼりになりかけたけど、 ヒーロー側の説明でうまく収まった
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